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急性気道感染症への処方見直しを

急性気道感染症への処方見直しを

米国では成人外来患者に対する抗菌薬処方件数が年間1億件を上回っており,その約4割が呼吸器感染症に対するものとされている。中でも患者の医療機関受診理由として最も多い急性気道感染症(ARTI:肺炎などの合併症を伴わない急性気管支炎,咽頭炎,鼻副鼻腔炎,かぜ症候群)への抗菌薬不適切投与は珍しくなく,抗菌薬耐性発現の温床となり公衆衛生上の脅威となっている。こうした現状を踏まえ,米疾病対策センター(CDC)と米国内科学会(ACP)は合同で成人ARTI患者に対する抗菌薬の適正使用に関する臨床ガイドラインを策定し公表(Ann Intern Med 2016年1月19日オンライン版)。合併症を伴わない急性気管支炎やかぜ症候群に対する抗菌薬投与を控えるよう強く呼びかけた。

広域スペクトラムの抗菌薬処方はここ10年で4倍

 米国だけで抗菌薬耐性感染症に年間200万人以上が罹患し2万3,000人が死亡。経済的損失も300億ドルは下回らないと試算されている。加えて,スペクトラムが広域なセファロスポリン系薬やマクロライド系薬の処方頻度が高いと多剤耐性の肺炎球菌感染症リスクが上昇すること,抗菌薬投与によりClostridium difficile感染症などの重篤な有害事象を誘発する恐れがあることなども指摘されている。

 CDCによると,最近10年間で5歳以上への抗菌薬処方件数は全体で18%減少した一方で,広域スペクトラムのフルオロキノロン系薬やマクロライド系薬の処方は4倍になっており,外来における抗菌薬の不適切使用を減らすことは依然として最重要課題の1つ。そこで,ACPとCDCは合同で,専門学会による近年のガイドラインを補完すべく,成人ARTI患者の診療に当たる機会のある全ての臨床医に向けて抗菌薬適正使用に関する臨床ガイドラインを策定し公表した。

 今回,成人ARTI患者への抗菌薬適正使用のエビデンスを検討するに当たり,米国感染症学会(IDSA)をはじめとする専門学会の臨床ガイドラインを参照しつつ,Cochrane Library,PubMed,MEDLINE,EMBASEに収載された英語論文データ(2015年9月時点)を対象としたナラティブレビューを行った。慢性肺疾患あるいは免疫能低下に該当する症例は今回の検討対象からは除外した。

 今回の臨床ガイドラインでは,成人ARTI患者に対する抗菌薬使用法を疾患別に提示している。その概要を以下に示す。

・合併症を伴わない急性気管支炎

 ここでは自然寛解を見込める気管支の炎症で咳嗽持続期間が6週以内のものを「合併症を伴わない急性気管支炎(以下,急性気管支炎)」と定義する。米国では新規外来受診患者全体の約1割がこれに該当するが,その約7割以上に対して抗菌薬が投与されている。しかし周知のとおり急性気管支炎の9割以上はウイルス性。症状を手がかりとして非ウイルス性感染(Mycoplasma pneumoniae,Chlamydophila pneumoniaeなどを原因菌とするもの)との鑑別を行うのは困難であるが,複数の論文から,抗菌薬による有害事象リスクを考慮すれば,肺炎がない限り抗菌薬投与は不要とされている。そこで同ガイドラインでは「肺炎を認めない限り急性気管支炎への抗菌薬投与のベネフィットはなく,ウイルス性であるか否かのルーチンな検査も推奨されない」としている。

・咽頭炎

 症例の大半がウイルス性で非ウイルス性は15%未満と考えられる。ただし,A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎を示唆する症状には十分な注意が必要である。発熱の持続,前頸部リンパ節の腫脹,滲出性の扁桃・咽頭炎などが認められたら咽頭拭い液に対する迅速抗原検査や培養検査を実施し,A群β溶血性連鎖球菌が検出された場合には,罹病期間の短縮,急性リウマチ熱や化膿性合併症の予防を目的として抗菌薬投与を行う。

 連鎖球菌性咽頭炎以外のケースでは抗菌薬投与の必要はない。

・急性鼻副鼻腔炎

 ウイルス,アレルギー,刺激性物質によるものが大半を占め,ウイルス以外の病原体によるものは2%未満と見られる。ただし,症状が10日を超えて持続している場合,39℃以上の発熱や顔面痛などの重度症状が3日以上にわたって生じている場合,ウイルス感染症に典型的な症状が5日間続き,いったん改善した後に再び症状の悪化が認められる場合(double sickening)には抗菌薬投与を検討してよい。

・かぜ症候群

 全症例がウイルス性であることから,抗菌薬投与によるベネフィットは皆無であり,決して投与してはならない。

https://medical-tribune.co.jp/news/2016/0128038299/